理念経営
(パーパス経営)

コラム

理念策定

近年世界的に注目を集めている理念経営(パーパス経営)ですが、
日本でも数年前から新たに理念を策定する動きや、そのためのコンサルティング、
関連書籍の出版などで盛り上がりを見せています

1. 理念経営

理念とは、企業の「目的」や「存在意義」、事業への「熱い思い」などを表し、

理念経営とは、理念を組織の最上位概念として全ての企業活動を行う取り組みのことを表します。


理念経営では、経営者個人の求心力に頼るのではなく、経営者、従業員ともに理念の実現を目指す(経営者だけではなく社員皆が「このためにやっているんだ」と意気に燃えている、そういった状況を目指す)こととなります。

. パーパス経営

「パーパス経営」も、基本的には理念経営と同じものと考えることができます。

ここでの「パーパス(PURPOSE)」は、企業の「目的」や「存在意義」(あるいは「志」)といった意味で使用されています。


パーパス経営が注目され始めたのは、諸説ありますが、ビジネス・ラウンドテーブル(米国の経済団体、大手企業を中心とした181社)による「企業のパーパスに関する宣言」(2019年)が発端のようです。

そこでは、企業のステークホルダー(利害関係者)として次の5つを挙げており、それら全てのステークホルダーに対して価値を提供すると宣言しています。


① 顧客

(顧客への価値の提供)

② 従業員

(従業員への投資、育成)

③ サプライヤー

(仕入先との公正かつ倫理的な取引)

④ 地域社会

(地域社会への支援、環境の保護)

⑤ 株主

(株主への長期的な価値の創出)


この宣言は、企業の「目的」を従来の「株主利益の最大化」(株主第一主義)という考え方から変更し、(顧客、従業員・・・といった)「すべての利害関係者への価値提供」へと再定義するものとして注目されました。


背景として、企業の社会的責任に対する意識の高まりや、持続可能な社会に向けた取り組みの加速などが考えられますが、この宣言が世界へ影響し「パーパス経営」の大きな潮流(一種のブーム)となっているようです。


(尚、理念についてはパーパスの他に、ミッション、ビジョン、バリューなどに細かく分けて述べられることもありますが、本稿では以降まとめて「理念」と表現しています。)

. 理念策定の効果

理念を策定し、社内外で共有することにより、以下のような効果が期待されます。


. 理念の例と重要ポイント

① タバコの販売会社


あるタバコの販売会社の例(*)ですが、その会社は「我々はタバコを愛している、タバコが好き好きでしょうがない。我々にはタバコを吸う権利がある。」といった理念を定めていました。

役員たちは役員室でも煙をふかしており、雑誌の記者が取材にきたときなどでも、足を組んだままぷかーとふかして、「何か文句があるのか?」といった態度だったとのことです。


今の時代で考えると、とんでもないように思われるかもしれませんが、

それでも、この理念には求心力がありました。(皆が本気で信じていました。)

この会社では近年、この理念をESG(環境・社会・統治)やSDGs(持続可能な開発目標)などを意識したものに変更しました。


世の中的には受け入れられやすいものになったと思われるかも知れませんが、

この新しい理念は、どうやら不評の様子です。

「本当にそう思っているのか?」「世間体を気にして掲げているのではないか?」といった疑念が、社会の人々や従業員の心に生じたのかもしれません。



このように書きますと、「どのような理念が正しいのか」と思われるかも知れませんが、

理念に正解(正しい、正しくない)はありません。皆が「本気で信じられるものかどうか」が大事です。理念を策定する際には、経営者や従業員の思い、顧客や社会のニーズなどを踏まえて、心の底から信じることのできる理念を考え出すことが求められます。



(*)一部筆者による加工を行っています。



最後に、筆者が個人的に興味深いと思う理念を一つご紹介します。


マースペットケア


理念

ペットにとってのより良い世界

ペットが健康で幸せに暮らすことができ

喜んで受け入れられる世界を創造したい


取組み(活用)

「ペットフード」事業から、「ペット(動物)病院」事業などのペットの健康に関わる事業へ新たに進出。

但し、やみくもにアプローチするのではなく理念を道しるべとした。

現在は「スマート首輪」(ペット用のスマートウォッチのようなもの)でペットの活動をモニターする事業にも進出している。



飼い主側ではなくペットの側に立っているのが興味深いと思い取り上げました。

ドッグフードの「ペディグリー」やキャットフードの「カルカン」などで知られる、マースペットケア(アメリカの食品会社「マース」の事業部門)ですが、ペットフードからペットの健康に関わる幅広い分野へと事業領域を拡げています。

但し、やみくもに拡げるのではなく、理念を事業展開の道しるべとして活用しています。


スマート首輪では、ペットの生体情報を取得することができ、体調が悪いとなるとすぐに獣医に連絡するといったこともできるようです。(筆者は昔、犬を飼っていたことがあるのですが、散歩の際などに紐を振り払って逃げてしまうことがよくありました。スマート首輪をつけていれば、GPSが入っていますので居場所がすぐにわかり、車にひかれたりする事故も減らせるのではないかと思います。)


いずれにせよ、マースペットケアでは「ペットにとってのより良い世界」を実現するために企業活動を行っています。



この例のように理念を定めた後は、実現のための具体的な取り組みを行うことや、

社内外への共有を図っていくことがとても重要です。




(神戸商工会議所 ビジネス・メールマガジンへの寄稿)

原文を掲載  2023/10/25)

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